私は福井県の漆器屋です。73才になります。
18才で高校を卒業して、家の仕事に着きました。普通、どこかに修行に行くパターンが多い中、私は家で、親父の横に座って、仕事をしていました。
その仕事の内容とは、フシ取りです。父が塗った椀、漆をかけた時は、泡が多く、ゴミがわかりませんが、30分ほどすると、落ち着いて来て、塗った表面にゴミなどが目立ってくるのです。そのゴミを取る仕事が私に与えられました。
今から、考えると、大変重要な仕事でした。ゴミが残ったまま、乾燥すると、キレイな表面にブツが残り塗り直しになります。
そんな重要な仕事を、高校終わったばかりの18才に、させるか?と今でも疑問です。
そのような仕事をする中、
色んな人から電話がありました。
その中で、一番気になる話しは、椀の内側の底に貼った布が浮いてくるというクレームでした。
何年も使われた方からも、布が浮いてくる、とよく言われました。
本当に丈夫な漆器とは何だろう、
どうすればいいのか?
基本から考えてみよう!
まずは漆から、日本産の漆は岩手県の二戸市で一番多く生産されている、しかし実際に広く使われているのは中国産である。
私は漆関係のセミナーや講演会にも積極的に参加しました。
その中でも、漆の研究で、日本産と中国産の違いを科学的に説明した事に大変興味を持ちました。
中国の漆産地は20ケ所ほどあるが、
そのうち5ケ所程は、日本産に匹敵するものがある。
中国産と日本産では、価格が10倍もするので、中国産ではあるが、品質がいいのであるなら、使う価値があると考えました。
次に、椀をどのように塗ればいいのか?
片っ端から工場見学して回りました。
河和田はもとより、山中、輪島、……
どの産地も、木の椀があったら、まず下地をします。この部分に問題があります。
下地漆は粘っていて、厚みを作ります。
木と下地漆がしっかりくっついていません。剥離してしまいます。
私は考えました。
木に漆を吸わせてやろう!
何のことはない、
昔の文献に沢山書いてある!木固め、
多くの漆工場は、それを省いている事がわかった。
私が作る漆器は絶対、きっちり木固めをしよう!!
最初に荒挽シリーズを作りました。
それは木地を荒く挽き、丸くする場合、まず四角から六角、そして八角と、次第に円の形に挽いていくのですが、その途中の段階、五角とか六角、七角の、何も考えずに荒く挽いた自然な形がいいと思いました。丸盆、茶托、銘々皿、盛り鉢、等の荒挽の作品が出来上がりました。
そして、私が、はじめに苦労した、フシ取りをどうするか!
まず、下地をヘラで付けるのでなく、刷毛で付けるようにしました、漆が沢山入り、丈夫になります。
刷毛目が付きます。
私は、刷毛根来(はけねごろ)と名付けました。
椀の淵に布を巻いて丈夫にしてあります。一般的に巻いた布が見えないように下地しますが、
私の場合、あえて巻いた布を見せました。
渕布根来(ふちぬのねごろ)と名付けました。
37才、浜松市のギャラリー「汎」
ヒロさんで初個展、
39才、家庭画報に掲載される、
41才、東京都立産業貿易センターで 「暮らしの器」を主催、
49才、全国各地で個展開催する、
54才、ニューヨークで個展開催する--
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今から20年前にニューヨークに、1年間で4回も行った事が思い出されます。
ニューヨークの新聞記者が私のことを書いてくれました。
掲載内容
『顔』コーナー
福井県の漆作家 山岸厚夫
現代漆に挑戦する
福井県の漆作家、山岸厚夫さんが、ニューヨークの和食器と厨房用品を扱う専門店「KORIN」で漆の実演を7日から12日まで行なった。福井県に5代伝わる漆芸を伝えながらも、同氏の作風は、従来の漆器とは大きく異なる。漆といえが、キズがつく、手入れが難しいということをまずイメージしてしまうが、絢麗な面にキズがつくのが恐いなら最初からキズをつけてみたらどうだろう、とう逆転の発想から生まれたのがこの人のデザインだ。
それは、新品のジーパンを洗ったように、ストーンウオッシュとまではいかないまでも、使い込んだ味のある雰囲気を出すことにつながった。ぺーパーで擦って細かなキズが出来たところに漆を塗り込む。表面はつるつるだが、凹んだところに漆が詰まっているのでキズが付きにくい。その原形は、もともと根来塗という名称で有名だが、同氏が作るのは、ふだんから茶わんと同じにじゃぶじゃぶと使いたいという使う側の視点に立って、自分の作りたいものを作った、その結果生まれたものがこの根来塗だ。
1951年福井県出身、69年に武生商葉高校を卒業後、実家である「河和田漆器」の道を歩み、先代より塗の技術を学ぶ。以後修業に励むと共に伝統の河和田塗りに現代感覚を取り入れた新しさに挑戦し、創作活動を続けている。「見えるところはハゲでも、見えないところを重点的に手を入れているのがオレの美学かなあ」。今年は今回のKORINでの実演展示即売だけでな
く、春にはギャラリー・ミチで、6月には寿司田ギャラリーでも開催している。11月28日から12月17日までは、フエリッシモ・デザィン・ハウスでも展示と、NYで発表の機会に恵まれている。
「18歳からやってきたことを土台にして、自分の世界を造る、オレ自身の内部を見つめるための挑戦かな。」
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私は日本産漆の良さも研究して来ました。
実際、いつもは漆屋さんから、漆を入荷していますが、ふと、漆かきをしてみようと思いました。
私の家の隣の方が、昔、漆掻きをしていて、私に指導してくださいました。
漆の木は自宅の近くの山に20本程ありました。
夏の暑い日の早朝、朝4?5時に起きて、山に入ります。
初めて、漆の木に漆掻きの道具を使って、ひと掻きしました。
ビックリ??しました。
とても、いい香りがするのです。
いつも漆屋さんから、来る漆は、あまりいいにおいとは思わなかったです。
ところが、漆の木から直接、取ったら、香ばしくて、良い匂いです。
私だけでなく、家内の敏子も経験した方が良いと思い、次の日に連れて行きました。
私がこれは!!と言う作品には、
日本産を使っています。
資福寺の住職様にも沢山、私の作品を使って頂いています。
私は9年前に脳梗塞になり、半年間入院しました。右半身が不自由になりましたが、車椅子は使わないで、杖で歩いています。退院後、片手で包装とかしていたのですが、最近、現場復帰して、包装は元より、蒔絵やチョットした塗りも片手でやっています。
またパソコンも何とか、使えるようになって来ました。
私はまだまだ色々な事に挑戦して作品を作り続けます!!
916-1232
福井県鯖江市寺中町29-2
うるし工房錦壽(K INJU)
山岸厚夫